灰釉軒先瓦(瓦当)
クメール アンコール王朝期 11世紀〜13世紀
瓦 高 13.5cm 横 12.5cm
軒先丸瓦の瓦当で、この瓦当部は、范での型作りで製作されます、アーチ形の瓦当に紐作
りで成形された半裁円筒形の丸瓦を接合し製作されます。
この瓦当表面の文様は、蓮の花びら一つを文様にし、主弁の両脇に脇弁(小弁)をあしらった
クメール特有のデザインです。
この文様はクメール建築のいたるところで見られ、通常の東南アジア美術で用いられる蓮華
文と異なることから、「クメール・ロータス」と美しい名称で呼ばれています。
クメールの瓦は、殆どが破損した陶片で窯跡や遺跡周辺、王宮跡などから出土しています。
アンコール期のカンボジアを訪れた中国(元)の使節随行員、周達観は、「真臘風土記」
【王室・住居】にて「国宮(王宮)及び官舎、府第(役所の建物)はみな東に面している。
王宮は金塔(バイヨン)・金橋の北にあり、北門に近く、周囲は五、六里ばかりである。
その正殿の瓦は鉛でつくり、(その)ほかはみな土瓦で黄色である。」、「その(王の)次の
王族、大臣らの家屋のごときも(もの)は、つくりと広さが常人の家と大いに異なっている。
周囲(の建物)はみな草ぶきの屋根を用いるが、ただ祖廟および正寝(表御殿)の二ヵ処のみ
は瓦を用いるのことを許す。」また庶民の家のごときは、ただ草屋根を用いるだけで、すこしの
瓦でも決して屋根にあげない、と語っています。
この作品は、ゆがみがなく良く均整のとれた美しい姿で、瓦当て部分に欠損のないものです。
残念なことに、一度どこかに接着をしていたのか背面の丸瓦部分に接着剤がこびりついて
います、堅固に硬化しており、かなりの年月も経ってそれなりに自然な感じでもあります。
背面でもあり展示する場合は、問題はありませんが画像(最後の画像・茶色系の接着材)に
てご確認下さい。
周達観 「真臘風土記」 和田久徳 訳注 東洋文庫507 平凡社 1989
参考画像 東京国立博物館 「アンコールの美術・フランス極東学院交換品目録」 1998